神の座
ルシファー 私は、かつて神に仕えたことがある。
聖霊 あなたは、神の姿を見たことがありますか。
ルシファー いいや、神は、姿を現さない。だから、神なのだ。
聖霊 その通りです。神の姿は見えません。でも確かに、そこに居られるのです。
ルシファー しかし、儂は、神の声を聞いた。
聖霊 神は何も語りません。何も語らずとも、この世は、神の意志に支配されているのです。
ルシファー いいや、私は、確かに聞いた。
聖霊 神は、何も語りません。何かを語れば、それは、神ではありません。
なぜなら、言葉は、この世を分かつものです。神は、絶対です。この世を分けたりはしません。
だから、神は、何も語らないのです。
ルシファー ええい、うるさい、俺は、神の座を奪おうとして、追われたのだ。
聖霊 それは、面妖な。
ルシファー 何が、おかしい。
聖霊 神は全てです。ですから、この世の全てが、神の座です。また、神は絶対です。だから、どこが神の座か、特定することはできません。とりたてて、どこから何処までが神の座と区別することもできません。
糞尿の中にも、神の座はあります。灼熱のマグマの中にも神の座があります。戦場にも神の座はあります。それこそ、あなたから見て、針の山ようなところにも、神の座はあるのです。全ての場所、あらゆるところに神に座はあるのです。牢獄にだって神の座はあります。それこそ、権力者なんて牢獄にいるようなものですけれど・・・。あなたが居た暗がりの中にも神の座はあるのです。
ルシファー 何だと、俺が抜け出してきたところにも神の座があるだと。ならば、あの暗く、ジメジメとして、淀んだところにも神が居たというのか。
精霊 もちろんですとも。神は、何処にでも居られます。
あなたが、神の座と思うところが、あなたにとって神の座でしょうが、それは、あなたにとっての神の座にすぎません。そのような、神の座を奪ったところで、あなたにとっては、意味があるでしょうが、他の者にとってどれほどの意味があるでしょう。況や、神には、何の意味もありません。
ルシファー 儂は、神の怒りにふれ、楽園から追い出された。
その原因を造ったのは、人間どもだ。
だから、儂は、人間どもを神に背かせる。
聖霊 どうぞ、おやりなさい。あなたは、あなたが、信じるようになさるがいい。
でもその報いを受けるのは、あなたとあなたの追従者達ですよ。神には何の影響もない。神を必要としているのは、あなたとあなたの追従者達ですよ。それを認めなさい。そうすればどれほどあなた方は楽になることか。
それに、人は、神に背くことはできません。神は、絶対なのです。背くとか、背かないと言うのは、相対的な問題です。それは、人の心の問題です。絶対な存在に相対的な価値観を持ち込んだところで意味はありません。
右とか、左というのも同じです。右とか、左というのは、その人から見て、右であり、左なだけです。真ん中も、左から見れば、右です。しかし、それは、その人の立つ位置によって決まるのです。全てである神に、それを持ち出したところで、意味がありません。
神は、右でもあり、真ん中でもあり、左でもあり、そのいずれでもありません。
ルシファー 俺は、神に代わってこの世を支配してやる。
聖霊 どうぞ、どうぞ、おやりなさい。
ルシファー 貴様は俺を、おちょくるのか。
聖霊 神はこの世の創造主。被創造物が神に代わってこの世を支配することはできない。なぜなら、この世の何物にも、依存しないから神は、この世を支配できる。汝は、この世の全ての物に依存している。おまえを存在させているのは、この世の全ての物だからである。だから、この世を汝は支配することはできない。
ルシファー 黙れ。黙れ。理屈なんてどうでもいい。俺は、この世の全てを、思い通りにしてやるというのだ。
聖霊 神は、絶対的な存在。思いは、相対的な観念。絶対的な存在である神は、相対的な観念にはとらわれません。だいたい、その思いそのものが、神にとらわれている。
聖霊 神は、あなたの心の内にあるのです。
ルシファー 儂のうちにもあるというのか。
聖霊 そうです。
ルシファー 神を憎み。自分を憎む。
聖霊 神を愛し。自分を愛す。
ルシファー 神を殺し。自分を殺す。
聖霊 神を生かし。自分を生かす。
ルシファー 神を裁き。自分を裁く。
聖霊 神を受け入れ。自分を許す。
ルシファー 神を呪い。自分を呪う。
聖霊 神を助け。自分を救う。
ルシファー 神を欺き。自分を欺く。
聖霊 神を信じ。自分を信じる。
ルシファー ウーン。この俺はどうしたらいいのか。
聖霊 神に、お聞きになりますか。神に、救いを求めますか。
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